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釣り場 : 大分県

Writer : 編集部

Residence : 大分市

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梅見の時、渓流解禁日に竿を出す

2016年 3月 1日 13時頃

以前「今年も渓流解禁日には行けないであろう」と、書いたと思う。しかし、どういう訳かハードスケジュールの中にぽっかりと穴が開く。3月1日、晴れ。渓流解禁、その日である。行きたいような…、行きたくないような…。正直な話、渓流解禁日に良い思い出は無い。例えば、東京近郊のあの川はこうだ。死ぬ思いで残務を片付け、ゾンビめいた顔でやっと辿り着く夜明け前の河原。夜明けを待たぬうちに両隣りは釣行者で埋まり、移動の余地がなくなる。夜明けとともに第1投を放とうと竿を振りかぶると、後続者が目前15mに突入し、いきなりウエーディングしてくる。仕方なくその背中をルアーでシバキ続けていると、昼前までにアブラハヤがスレで掛かって来て、帰りにヤケ酒するだけの一日…。あまり…、いやいや完全に行きたくない。これはもはや罰ゲームと言える。しかし、この日を逃すと3月中に川に立てるアテもない。行くしかないのである。「ああ、仕方ない仕方ない」と言いつつ、結局行ってしまうあたり、私ももはや釣り中毒症と言えるのかもしれない。

当日、いつものように日が登ってからゆっくり家を出る。梅の花ほころぶ山里を抜け、残雪の峠道をおっかなびっくり下って行くと、昼過ぎ頃に目的地、竹の川集落に着く。いつものように店の戸をガラガラと引き開ると、中には懐かしい木の陳列棚。そこには乾麺や魚肉ソーセージといった山奥定番の商品が並ぶ。ここでコンビニ並みの品揃えを期待して「あれもない、これもない」と慌てふためくのは素人。通は黙って山の環境が長い歴史の中で選別した品々を見て頷き、おもむろにそれをレジへと運ぶ。その日はアンパンを手にレジへと向かった。釣り券もここで買えるので一年券を買う。店のおばちゃんは「今日は冷え込みが厳しくて数は出ていない様子、上流に入った人が良く釣っていましたよ」と情報をくれた。ここの情報が一番早くて頼りになるので有難い。昼の時点で「上が良かった」なら、そこは叩かれた直後と判断できる。そっちは夕方に行く事にしよう。向かいの民宿で蕎麦を食べてから、混雑を避ける意味で下流へ行く事にした。

時刻は午後2時過ぎ、頭地集落の少し上流に入る。晴れ渡る空の下、谷底には寒風が走り青空に鳶が舞う。条件としては極めて良くない。しかも、この辺りに放流があったという話は聞いた事がない。ただ、それだけに釣り人の足跡も皆無であった。関ヶ原合戦さながらの竿の列を警戒していたのに意外である。九州の解禁日はこんな感じなのだろうか? いや、これは偶然に違いない。油断していると釣り人の大群がいきなり遡ってきて、有無を言わさずポイントを電撃的に蹂躙(じゅうりん)してゆくかもしれない。「関ヶ原の次はアルデンヌか?」背後の脅威にそれとなく気を配りながら今年最初の1 投。最初の1 匹も驚く程あっけなく来た。大岩にぶつかる流れから出てきた自作ミノーが、淵尻のたるみに入ろうとした時、キラリと水中で銀色が一閃し、竿先が震える。網に入ったヤマメは溢れる午後の日差しの中、アメジスト色のパーマークを光らせた。出来過ぎていて夢みたいだ。ここで背後を振り向くが、家康もアドルフも来ていない。

半信半疑のまま釣り上る。魚は教科書通りの場所から何のヒネリも無く出てくる。ちょっとした深みを見付けたら流心にミノーを打ち込み、キラキラと光るルアーが流れに押されて腹を見せる辺りで銀光一閃。放流が無い事が逆に幸いしてか、野性味溢れる魚が飛び出してくる。何匹か釣りふと手を休めると、下流から釣り人が遡ってきた。ルアーロッドを持っていたので、情報を貰おうと足を止める。簡単な挨拶とお決まりの「今日、どうでしたか?」のヤマメ談義が始まる。その人によれば、「朝はガイドが凍りつく寒さで食い渋り、午後から好転した」とのこと。スマートフォンの画像を見せてもらうと、やはり綺麗なヤマメが映っていた。

時刻は16時前。すでに魚籠は重くなっている。遡って来た人は「万江川も見に行きます」と言って川を上がった。もう少しやっても良かったが、夕まずめに誰かが来るかもしれない。手付かずのポイントを残しておこうと思って、私も早上がりすることにした。今は鹿と猿しか通わぬ細道を登る。石垣と朽ち果てた農器具だけが暮らしの痕跡を残すその場所に、転々と萌黄色の輝きを見付けた。フキノトウだ。そのいくつかを魚籠に入れ、先を急ぐ。電波の届く所まで移動して携帯電話を開き、花樹の大将に一報する。「大将、今日ヤマメ捕れたけど行って大丈夫?」の問いに「待ってるから早くおいで」の嬉しい返事。帰って解禁祝いと行こう。合戦も電撃戦も無かった谷に鴉が一羽舞い降りてくる。先ほど捌いたヤマメの内臓を見付けたようだ。一足先に宴を始める気らしい。早く帰ろう、鳥にまで分け前が行きわたる川辺川の恵みに今宵は乾杯。

HN/妖怪熊河童・記

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