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釣り場 : 熊本県

Writer : 編集部

Residence : 大分市

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寒ブナの引きに春を思う

2017年 2月 14日 11時頃

寒ブナ…、寒くて釣れない時期にあえて釣るのが粋であるとされるややマゾヒスティックな釣りだと思われるが、実のところ、そういう要素はこの釣りを味わう上で重要なエッセンスになっている…と、私は思います。冬枯れの景色の中、青空と枯草以外、色を放つものとて無い真冬の水面を割って躍り出る寒ブナの姿は、周囲の環境が厳しければ厳しい程、その輝きが増してくるものだと思うのは、私だけではないはず。その他に、この魚が真冬に釣られる理由の一つに、冬になると身の臭みが抜け、食味が良くなる点も重要な要素として挙げなければならないかと思われます。

2月14日、世がバレンタインデーに浮かれる中、私は一人山鹿の枯野を訪れる。狙いは田んぼの水路で冬を越す寒ブナ。ポイントはすでに去年、タナゴ探しをしている時に見つけた水路と決めている。現場近くに着いたのは午前11時。まだ慌てることは無い、ローカル色溢れる釣具店や、歌舞伎座界隈をそぞろ歩きし、佇まいが気に入った蕎麦屋の暖簾をくぐって、蕎麦を啜る。寒ブナは逃げはしない、頃合いにちょっと竿を出すだけで、易々と目的は達せられるはずなのだ。しかし…件の水路に行ってみて青ざめた。何しろ水が無い。工事のために水抜きしたらしい。慌てて周囲の水路を覗いて回る。嫌な予感がする。寒ブナが難しいとされるのは、主にフナの「穴」と呼ばれる密集ポイントを探すのが難しいからである。この釣りは、フナ達が群れている穴場に仕掛けを落とせば一発で食ってくるが、それ以外の場所は閑古鳥である。極寒期はその度合いが極端で、穴を探り当てるか否かで結果は10対0の天地の差となって表れる。

慌てて水路という水路を片っ端から覗いて回る。ある程度の水深が有る所には竿を出してもみる。しかし、中々「穴」は見つからない。小1時間ほど車を走らせただろうか? 水位調整のための堰で仕切られた水路の、小さな水門脇に黒々としたフナの魚群が見え、ホッと胸を撫で下ろした。3mチョイの渓流竿に玉ウキが5個付いたシモリ仕掛けを結ぶ。3号の袖バリに、釣具屋で買ってきたミミズをチョン掛けで付ける。タナは基本底ベタでいいので、5個の玉ウキが全て沈むようにオモリ調整をした。仕掛けを下ろすと、玉ウキは1個、また1個とゆっくりと沈む。オモリが底に着くと、水中ウキになる。フナが近くを通るとウキの列はユラリと揺れた。時折小ブナが水面に上がってきて、何かを口にしてすぐ潜ってゆく。羽化したユスリカを狙っているのだろうか? 時々、玉ウキを鼻で突いて戻る奴もいる。グルテンエサで宙釣りの方がよかっただろうか? とりあえず、板オモリを微妙に切って仕掛けの沈むスピードを遅くする。ウキはゆっくりと沈んでいき、オモリが底に着いた。遠くでヒバリが鳴き、小ブナがウキを1 回小突いて潜った。岸辺には気の早い菜の花。不意にウキの列が「スッ」と横へ流れた。

竿を立てると、ずっしりした重み。しかし、そのまま一発で竿をノされてハリスが切れた。タモが要るサイズじゃないはずなのだが、以後、同じパターンで3回切られる。寒ブナは思っていた以上にパワフルだった。ハリを袖5 号、ハリス0・8 号にサイズアップして、再び静かに仕掛けを下ろしアタリを待つ。ポイントに入れた仕掛けは、水の流れに押されて少しずつ流れる。時折仕掛けをちょっとだけ持ち上げて誘いを入れる。数回誘いを入れた後、ウキの列がまた走った。竿を立てると、またずっしりと重みが乗り、竿は限界近くまで絞り込まれた。こんどは切られまいと、騙し騙し魚を引き回し、道糸を手繰って抜き上げた。1匹目から大きいのが釣れた。20㎝以上ある。クロガネのような鱗を身にまとい、ずっしりと重いその魚体に春の気配を感じる。あと、一月もしたらこの水路にも、卵を抱えた大きなフナが押しかけてくるのだろう。

日が少し傾くとアタリは急に多くなり、ごく短い時間、入れ食いを楽しめた。最初はミミズを半分に切って付けていたが、割と大きな魚が釣れるようなので、気前よく1匹丸ごと付けると、反応は更に良くなった。何匹かフナを釣り上げ、食べるには十分な量が確保できたので、そろそろ帰ろうかと思った頃、ウキが勢いよく横へ流れた。竿を立てようとすると、いきなりノされそうになったので、魚を追ってちょっと走る。何とか弱らせ、そっと抜き上げた魚は銀白色のニゴイであった。こいつは塩焼きにしよう。その場で花樹の大将に電話を掛ける「例の寒ブナ、獲れたから行きますよ」。川岸で菜の花を摘んでから、行き付けの飲み屋に向かう。

大将に魚を渡し、熱燗を飲みながら待っていると、一品目に魚らしからぬものが出てきた。食パンを皮にしてフナのミンチを揚げた春巻き風。サックリとした皮の下にジューシーな身が詰まっている。以後、唐揚げ、煮つけ、つみれ汁、ニゴイの塩焼きなど、次々と出てきて酒も進む。この時期ならではの贅沢を満喫し、その日は夜遅くまで飲み続けた。あなたの家の近くにも、寒ブナが釣れる場所はあると思う。小春日和に誘われて、出かけてみてはいかがだろうか。

HN/妖怪熊河童・記

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