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釣り場 : 宮崎県

Writer : 編集部

Residence : 大分市

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平家の里にマダラ舞う

2015年 6月 24日 16時頃

去年の秋、台風直後の増水でどの川も入渓不能だった時、奇跡的に釣りができた思い出の場所がある。宮崎県椎葉村の十根川。あの時は長いトンネルを抜けた先にある小さな売店で日釣り券を購入し、小さいながらも野性味溢れるマダラ(当地の呼名でヤマメを指す)を何匹か釣り上げる事が出来た。「増水で釣れないから、お金は要らないよ」なんて言ってくれた店主の手前、何とか釣ってやろうと意気込み、釣れた魚を見せるために再び店に顔を出した思い出の場所。店主は釣果を見て「来年も来なよ、平水ならもっと釣れるから」とも言ってくれた。そして、6月24日、梅雨空の下、再びそこを訪れる。

店の女将さんは雨で増水気味の川を見ながら「増水気味で、釣れるかどうかわかりませんが」と言いながら釣り券を出してくれた。「いやいや、釣れますよきっと」と言いながら、私は去年と同じように釣り券を受け取る。この椎葉村、宮崎神話街道の中程にあり、今も昔も変わらぬ九州の秘境として有名。僻地であるが悲壮感はない。その日も時折小雨のぱらつく中、廃校下の赤橋から釣り始める。笹濁りの川面に自作スローシンキングミノーを投げると、すぐに小さなマダラの魚影が追って来た。上々の滑り出し。チビが居れば、どこかに釣れるサイズの魚も居る。

増水しているとはいえ、流れはそれほど太くない。時刻は11時、慌てるような時間でもない。根掛かり回避の観点からミノーをフローティングに替える。しかし、この対応が逆に当たった。小さな淵の反転流へミノーを落とし、竿先で小さくヒラ打たせながら巻いてくると、「ムズッ」と微かなアタリ。緑色の水の中で銀鱗が光る。逃げられないように慎重に巻いてくると、去年と同じように小さなマダラが釣れた。去年釣れたものよりパーマークが丸い。去年のポイントより相当下流の魚だからだろうか? 去年のは細い流れ文だったのだが…。流れ文のマダラはイワナと雑種化していると聞いた事がある。本当にそうなのかは知る由もないが、ここにもイワナの混入があるらしい事は聞いている。2匹目は淵頭の瀬で掛かって来た。スローシンキングミノーを流れに乗せて、そろそろ巻き上げようとした時にまた小さく「ククッ」とアタった。やはりサイズは小さい。私には天然物と放流物の区別は付かないが、これも九州のマダラらしい円形パーマークの美魚だった。

増水のため一度に遡行できる距離は短い。谷に刻まれた鹿の足跡を辿って道に上がってみると、そこで地元の人に出会う。私が腕に巻き付けてる釣り券を見て向こうから話しかけてきた。「どうですか? 釣れてますか?」すぐに釣り談義に花が咲く。聞けば、この人もマダラを釣ると言う。今は増水で魚の居場所が掴み難い話や、解禁当初は日本各地から釣り客が訪れる話等でひとしきり盛り上がる。ここいらの人は、大らかで話しやすい。それも全国から釣り客を引き寄せる魅力にもなっているのだろうか?

ここの暮らしは決して楽ではなかろう。小さな窪みに水を溜め、そこを耕して田としている。しかし、そのささやかな暮らしの傍に、四季の花を植える事を忘れない。悲壮を極める筈の落人伝説も、ここではちょっといい話になっている。「椎葉に落ち延びた平家残党、残らず討ち取れ」の命を受け、野獣しか通わない崖を這い上ってここまで辿り着いた那須大八郎が、この地で平家の姫と仲良く暮らし始めたという伝説すらある。

そこからさらに相当歩いて降りられる場所を見つけた。下りるのに苦労するような斜面だが、その下に小深い淵があった。水は笹濁りで底が見えなかったが、ここには居そうに見える。先行者の足跡も無い。ルアーをスローシンキングに替える。岩陰から顔を覗かせ、下手の淵尻にルアーをそっと着水させた。黄緑色のルアーがキラキラ輝きながら潜って行く。流心を横切り、大岩の反転流に差し掛かった辺りで不意に巻く手が止まった。重い引きがドラグを絞り出す。これは良い型だ! 慎重に慎重に巻き寄せる。中々浮き上がらずに、底へ底へと持って行こうとするのはヒレピンの良型特有の引きだ。岸に向かって走りだしたタイミングでそのままズリ上げる。白砂の上で跳ねる魚体は、さほど大きくはなかったが、ヒレピンの美魚だった。

同じ場所で尺上の大ハヤを上げた後に、下流へ下って耳川本流を攻めてみる。本流には「平家マス」の異名を持つ大マダラが居るという。それを討ち取ってやろうと思う。耳川本流はルアーを投げやすい広々とした流れだった。しかし、それだけにルアーで攻められているらしく、けっこう良い型のマダラを二回掛け損なった。何とか1匹上げようと思って頑張った日暮れ前、見た事も無い綺麗な模様のマダラが釣れた。アユのような錆浅葱色(さびあさぎいろ)の魚体に藍色の大きなパーマーク。鼈甲細工のような黄色のヒレをもった完璧な美魚だった。暮れゆく川面に蛍火が線を引く。今日はここまで。平家の里の姫に会えた事に満足し、帰路に就く事にしよう。

HN /妖怪熊河童・記

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